2014年12月14日

〈19〉GHS予備校と『漢文解析』

 市販している以上は当然のことながら、『漢文解析』は本来の想定より広い読者層に渡っているようである。育文社やHPを通してに届くお便りは,おおむね「コロンブスの卵」として評価していただいて、こんな「私製漢文法」が少しでも誰かの役にたてばそれで十分嬉しいのであるが、中には少しずれた思い込み・勘違いとしか思えない感想も散見されるので、今回は、まえがき・あとがきには書かなかった『漢文解析』の背景や経緯について書き記しておきたい。

GHSのこと
 そもそも私が講師を務めるGHSという大学進学予備校は、西新宿にある「総数少人数制予備校」である。浪人生は総数30名そこらしかとらない。でないと、塾長の目が届かなくなるからである。かといって選抜試験で優秀な生徒ばかりとる、というようなことはしないて、「無選抜・やる気次第」で申し込み順に入塾することになる。たとえ出発点が低くても、やる気があり好人物であれば、いかようにも伸ばしてやれるからである。
 1993年開校であるから、すでに20年の歴史がある。少人数制予備校のハシリであり、当初から少人数制のメリットを活かせる教育メソッドを創造すべく実績を重ねて来た。
 ざくっといえば、この間の東大合格者なら30名、早稲田慶応はその3倍、また医学部に進学した者(合格者数ではない)は国立私立あわせて50名を越えて、半数近くは現役の医師である。「無選抜・やる気次第・申し込み順」であるから、文系もいれば、理工、薬学、歯学志望もいるわけで、その中でのこの合格者数である。
少人数での双方向的授業のノウハウと、一人一人に合わせて細かく個別指導するノウハウとが結晶して、『体系化学』や『漢文解析』が生まれたのであるし、『医大受験』誌の継続連載があるのである。

『漢文解析』の想定対象
 GHSは、「無選抜・やる気次第」で生徒が入ってくるので、自然に世相の変化を反映する。私は、開校3年目くらいから参画しているが、90年代はやはり「東大・早慶」志向の生徒がほとんどだった。少子化も顕在化しておらず、大手予備校がまだ全盛だった時代でもある。
 バブルがはじけて、2000年代になるとその潮目が変わる。それまでは少数派であった「国立医学部志望」の方が、東大志望者よりも増えてきた。上にあげた東大合格者の2/3は、GHSの前半10年の実績である。それと入れ替わるようにして、地方の国立大医学部ないしは首都圏の私立大に入学する生徒が増加していった。
 今年などは、(試験制度改革のニュースにあおられたこともあり)文系の生徒は0人というGHSはじまって以来の事態であり、全国から集う生徒達の8割は「医学部が第一志望」となってきている。ちなみに「あとがき」にちらっと登場してくる、漢文の教えを乞いに来たという生徒は、今は、信州大学医学部の6年生となっている。私の中に眠っていた「漢文」を揺り起してくれた。

 『漢文解析』の講義の対象は、そんな生徒達である。原稿を書き始めたのは2008年からであり、『体系化学』の直後からである。それまでは、物理や化学のメソッド構築がメインで、「漢文のメソッド」なぞ求める生徒はいなかったのであるが、国立医学部志望者にとってはセンター試験はまさに‘死活問題’であるから、漢文もまたおろそかにできない、そこから内部テキストとして年々歳々改訂を重ね、そのver.4.0が『漢文解析』なのである。

『漢文解析』でいう‘理系’
 だから、「理系にやさしい」とはいっても、国立医学部志望なのであるから、その理系とは偏差値でいえば60以上であるし、センター試験では8割くらいはとれる学力が出発点である。ただ、そんな学力では、医学部は‘絶望的’なのである。だから、それを9割に引き上げる野望をもって漢文でもまた確実に満点を狙うメソッドを求めるのである。
 高校もトップかその次くらいの進学校だから、伝統的な訓読は一通りは学んでいるのであるし、古文だってそこそこできる、だけれども理系だけに時間がかけられないから、「漢文と訓読の時間の壁」を突破するメソッドが必要なのである。それゆえ漢文のまったくの初学者は想定外である。
 逆にいえば、高校でやったのと同じような訓読一辺倒の授業をやっても意味がない。なぜなら理数に時間がとられる分、「読書百遍」方式はとれないからである。それではそもそも彼らが退屈する。

……だから、本書のコンセプトに共鳴される一般読者には、このような事情がおわかりになる理工系や医療系など「かつては漢文に時間がかけられなかった」方々が多いのも頷ける。

大事な一点は、和人の歴史的・知的財産である漢文に対する、「漢文離れ」「漢文食わず嫌い」を少しでも減らすことであろう。伝統的な訓読を支持し、本書の行き方に賛同できない向きの方もこの点は同じはず。
 ならば、私よりも漢文の素養のある方々には、語呂合わせとかマンガとかではなく、こんな理系受験生に自信をもってすすめられる漢文メソッドを提示してほしいのである。残念ながら、未だそういうものが受験界に存在しないからこそ、医業を生業とし、GHSで化学と物理を講義する「門外漢」の私なぞが一石を投じた次第である。
posted by Kyuzen Ichikawa at 15:59| 著者より