2017年11月21日

〈43〉どんな虫が好き?

虫=insects !?
どんな虫が好き?と小学生たちにたずねれば、
「カブトムシ」とか「チョウチョ」や、
「ゲンジボタル」(おじゃる丸のおかげで)などが挙がるだろうか。
♫オケラだってミミズだって、アメンボだって・・・みんなみんな
生きているんだ、虫たちなんだ・・・ってなことを言いたいのではない。

ここでもし「は虫類」という答えが返ってきたとしよう。
カメやトカゲなんかが好きというのもありだろう。
すると現和人は、「それは虫ではないよ」と教えてやることだろう。

では、なぜ「爬虫類」には「虫」の字が含まれているの?
・・・と切り返されても困らないためのお話 (⌒-⌒; )

爬虫類ってどんな虫?
爬虫類の「爬」は、動物が這うように歩くの象形であるという。
ワニもカメもトカゲも、腕立て伏せしながら移動する。
もちろん、でかいトカゲである◯◯サウルス(大トカゲの意とか)たる
恐竜もこの仲間である。恐竜が虫 !!!???? とはこれ如何に。

現和人は、西洋科学的な、進化論に沿った生物学的系統樹による
生物分類に慣らされているから、爬虫類が「虫」にみえない。

センター試験、2010年本試出題に「老虫」という話がある。
筆者の出身地では虎のことを「老虫」というのだが、
別の地で、ネズミというのを知らず、「老虫」がいる!!
と言われてビックリした〜というエピソードである。

共に哺乳類であるから、爬虫類との共通点を探れば、
「虫」とは漢文世界においては、動物一般を指すことがわかるだろう。
つまり、生き物(animalというとやはりちょっとズレる)
だから、虫=insectではない。insectは「昆虫」という生き物である。

そこで漢文的カルト・クイズと行こう。

古中華人は、一説には、生き物の分類を
昆虫、羽虫、毛虫、甲虫、鱗虫、裸虫と呼び分けたとのこと。
では、それぞれどんな動物達でしょう?
まあ、このうちまともに現和人が認識できるのはおそらく昆虫だけだろうか。
たとえば、甲虫ってカブトムシでしょ?と思いたいところだが、
残念!! これは「亀」である。
羽虫はもちろんシロアリなどではなく・・・・・・

そう、もちろん「鳥」である。
現象論的分類だから、「甲羅」や「羽」をイメージするとよい。
では、この調子で……
毛虫=[             ] もちろん、worm類ではなく・・・
鱗虫=[             ] これはわかりやすいか・・・
裸虫=[             ] さてさて?? 


このうち「老虫」は、毛虫に分類される。哺乳類で
体毛に覆われいればよいから、ネズミだって獣のトラも
毛虫の仲間となるわけだ  ( T_T)\(^-^ )
現和人にとっては、げっ歯類とネコ科の動物として明らかに別物ではあるが、
漢文を理解する(いや、歴史的事象を理解するというべきか)には、
その時代の人々の目線と尺度、価値観と世界観を共有する必要がある。

漢文学習というのは、現和人がもつ価値観を相対化する機会であり、
別の世界ながら、我々に流れ込んで融和している漢文的視点を捉え返す窓口である、
・・・・・・なぜ、漢文を学ぶべきなのか?文法的に漢文解析をするその先には、
そんな世界が広がっていること、授業を通して伝えたいのは此の事である。


答: 鱗虫=[ 魚類 ].裸虫=[ 人間 ]  
posted by Kyuzen Ichikawa at 16:31| 漢字の由来と派生

2017年09月30日

〈42〉 患っていても走れるか?

「疾走」とは速く走ることだが・・・
 疾走という漢字は、英語ではsprintとかdashにあたるそうだ。
つまり、全力で走ること。そこで気になりません?
「疾」は 'やまいだれ()' がついている。
つまりは疾病、疾患の疾である。病んでいるように走る??
患っているのに走る? なんでそれで速く走れるのか???
そんな素朴な疑問を抱いたことはないだろうか?

たしかに、「疾」の中には「矢」が入っている。
古代においては、最速のものの代表格だ。
曰く、「光陰,矢の如し」 
月日はあっという間に過ぎ去ってしまうもの・・・
中学の校長先生が朝礼でよく言ってたな。

だったら「矢走」でいいじゃないの?と思ったりする。
何故に全力ダッシュに疒が付いてくるのか。

『傷寒論』という古典・・・
漢方の古典に『傷寒論』というのがある。
後漢末期から三国時代に張仲景が編纂したとされる中国医学書である。
この「傷寒」とは、主に急性熱性症、たとえば、腸チフスなど高熱をともなう
伝染性・感染性の急性疾患の原因と治療を説く。
これに対して、慢性病のことを「雑病」と呼んだりする。
雑病については金匱要略(きんきようりゃく)』として伝わっている。
このように、古代から、急性病と慢性病の区別はなされていたわけであり、
すでにお気づきのことと思うが、前者が「疾」、後者が「病」にあたる。
あっという間に発症し、(「邪気が人に中(あた)る」)
場合によってはコロリと逝ってしまうのが「疾」。
そういうわけで、「矢」に疒」が付くのである。

それが重篤になれば「病む」という使い分けがあった。
「疾病」という言葉は、すべての病気を合わせた言い方なのである。
もちろん、病んでいてはさすがに速くは走れないから
「病走」という言い方はないようである。

posted by Kyuzen Ichikawa at 07:29| 漢字の由来と派生

2017年08月26日

〈41〉 柳さんと楊(ヤン)さん

家族のスケジュールもあわず、仕事もギュウギュウのこの夏、
とくにバカンスとはいかなかったが、実はひとつだけイベントがあって、
こんな写真を撮ることができた。

salix.JPG

写っている人の大きさからわかるように巨大な柳の樹である。
樹齢は100年を越しているだろう。
北海道大のキャンパス内の光景である。
実は、高校二年生になる息子が、北大のオープンキャンパスに行きたい!!
と言い出して、急遽、GHSの土曜の授業後に、東京駅で待ち合わせ、
羽田から札幌に飛んで、日曜日の夜に長野にもどってくる
という強行軍に及んだ。仕事などで北海道を訪ねたのは、
これまで冬ばかりだったので、爽やかな広い空の北の大地を堪能できた。

さて、本題。
「柳」と「楊」はともにヤナギだということをご存知だろうか。
つまようじは、「爪楊枝」と書く。
つまり元々はヤナギを削ってつくったものだ。
(ただし昨今目にする「ようじ」は違う木がほぼ100%)
なぜ、おなじヤナギに二つ漢字があるのかというのが最初の問題。
学名.JPG

樹に接近すると、さ〜すが、ちゃんと学名が書いてある。
「サリックス・バビロニカ」と読める。
私たちが普通に目にするしだれ柳の学名である。

これに対して、西洋シロヤナギ(White willow)というのがあり、
学名をsalix albaという。こんな感じの樹。
salix alba.jpg

もっともヤナギというのは世界中に何百種類もあるらしく、
写真一枚きりで語るのはどうかと思いはするが、またとにかく違うらしい。

どうして、そんなにヤナギに思いを寄せるのか?というのが次の問題。

実は、このsalix albaの樹皮から抽出されたのが「サリシン」である。

そして、このサリシンから、「サリチル酸」が単離され、やがて、
「アセチルサリチル酸」すなわち‘アスピリン’という解熱・鎮痛薬の
人工合成に成功することになる。1897年のことである。
人類初の人工合成薬のアスピリン(独・Bayer社)は、
世界一売れた薬としてギネスに登録されている。

ヤナギは、古代ギリシアの医聖ヒポクラテスの時代から、
生薬として鎮痛作用が知られており、その中で選ばれしヤナギが、
salix albaだったのである。
当然に、これで楊枝をつくれば、歯痛の鎮痛になるわけだ。

もっとも今は、ヤナギ楊枝は高級贈答品扱いだし、歯痛のときは、
そんな一時しのぎに頼らず、歯医者にいくことを勧めるが……。

今や「柳」といえば、井戸の側のユーレイの背景アイテムと化してしまっているが、
実は、このサリシン等の生理活性作用によって、ヤナギの生命力は極めて強く、
古来ヤマトより、早春の青柳は、春の息吹きの先駆けだったのである。
強固な根を張ることで、水辺に植樹され、土手を守ってきた。

『医大受験』の医薬エッセイ連載では、こんな話を綴ったが、
北大の、ケタ違いに大きなsalixに出逢って、その生命力を再感した次第である。
posted by Kyuzen Ichikawa at 12:04| 漢字の由来と派生