2016年03月30日

〈32〉サンセイの反対

サンセイの反対は何なのだ?
 こういうタイトルをふると、それはバカボンのパパのセリフだろ!?と
ピンと来てしまう読者層もいらっしゃることと思う。
でも、さすがに漢文のエリアなので、バカボンのパパの話ではない。
前回から引き続き、化学の中の漢字というテーマである。
「酸性の反対」は何か? 
「そりゃ、アルカリ性だろ?」・・・・・・いやいや、漢字ネタですよ。
そもそも「アルカリ」ってアラビア語由来ということはご存知だろうか?
『体系化学』の読者なら語源を知っているはず。この形容詞形が alkalineだ。

「だったら塩基性だ!!」・・・・・・イヤイヤ、それも違う。
これは英語の‘basic’の訳語なのだ。塩基はsalt base 。
酸性は‘acid’=「酸っぱい」から来ている。その反対語が‘basic’とは、
英語系用語には論理性が欠如したものが少なくないがその一例である。
‘acid’という「味」でくるなら、アルカリ性も味で表現するのが対等性である。
あくまでも漢文のテリトリーなので、漢字での表現が追求したいところ。

酸が「酸っぱい」ならアルカリは・・・・・・「苦い」と答えたGHS生がいた。
その通り。アルカリの味は「苦い」で一応よかろう。
肥料に「苦土石灰」というのがある。「苦土」とは苦い粉末ということ。
ただし、「苦土」は酸化マグネシウムのこと。
だから豆腐を作るときに加えるものを「ニガリ」というがこれは塩化マグネシウムである。
だから、苦いはマグネシウムの味にすぎない。液体は「苦汁」という。
(くれぐれも苦渋とまちがえないように・・・・)
でも酸だって、酸っぱいで済まないものがあるのだから、
そもそも味なんて主観的なものは、化学用語にすべきではないのだ。

そこでようやく、「酸性」の反対の答えだが・・・・・・

セッケンの話
 セッケンを漢字で書ける人はそういないだろう。
「石」と書く。いや漢文的には旧字体で「石」と書きたい。
最近は、化学でも教育的な漢字制限とやらのせいで、「稀ガス」が「希ガス」となるだけでなく、
「セッケン」とカタカナで書いたり、「けん化」などと実にみっともない書き方をする。
この「鹼」とは何か?これが「アルカリ」という意味の漢字である。

肉を火であぶって焼くと、脂がしたたり落ちる。下には燃やした木々の灰が残る。
アルカリとはアラビア語で ‘ the ash (ザ・灰) ’というような意味である。
有機物中の、Na,K,Caが灰の中に酸化物として残る。これを水に溶かしたものが
「灰汁」であるが、これがアルカリ水溶液の昔の言い方である。

脂と灰(アルカリ)が混ざると、けん化が起こりセッケンができる。
市販のセッケンは天然やし油を今日アルカリで加水分解してつくるが、
とりあえずどんな脂や油でも、セッケンはできるのだ。

脂と灰とを混ぜて固めるので、「石」鹸なのである。

そこで結論。「酸性」の反対は「鹼性」と書くのが漢字としては正しい。
「鹼性電池」とは現代中国語で「アルカリ電池」のことだ。
しかし、やはり教育的配慮による漢字制限のせいで、
アルカリ性とか塩基性とかいうネジれた表現を学ばされるのが今の受験生ということになる。
posted by Kyuzen Ichikawa at 22:59| 漢字の由来と派生

2016年02月18日

〈31〉ヘリウム、ネオン,・・・を「希ガス」というが...

電子ブックの公開
まずは、『医大受験』vol.16を電子ブックで公開したのでお知らせする。
GHSのHPのテキスト公開コーナーから入ると閲覧できる。
最終号 vol.16は、諸般の事情から市場に出ず、非売品となった。
定期購読者には、感謝号として無料贈呈されたとのこと。
ということは、ふつうに書店などで目に触れることがないわけで、
なんのための原稿か?という思いも残るので、アップしたわけである。
しかもそれは「連載第1回」だったからという理由もある。
 最終刊で連載第1回という取り合わせは、さながらJ.ジョイスの小説のようでもあるが、
GHSとしては大真面目に、この続編をHP上等で果たしていく決意の表明である。
たまたま、電子ブック作成サイト&ソフトという媒体と出会ったので、
漢文の第一弾としてアップした次第。
 しばらくは『漢文解析』も市場流通から姿を消すので、こちらもアップしたいのだが、
育文社から譲り受けたデータファイルは、inddとかいう出版向けのプロいソフトで、
現状ではpdfに変換できないので、こちらが先になった。

希ガスの「希」とは?
 ご存知の人はご存知のように、私自身の日常は、漢文より化学を教えている方が断然に多い。
……まあ、それだけに化学は心の内ではかなり飽和してきているので、
「漢文を教えているときは実に楽しそう」とGHS生に指摘される有様(⌒-⌒; )
 その化学の授業でも、漢文と漢字の学びは、生徒の理解を助けることもある。

 もし、手元に周期表があれば(一般読者はネットで画像検索!!)最右端にある
「希ガス」元素を眺めてほしい。18族を縦に見ていくと、
上からHe(ヘリウム),Ne(ネオン),Ar(アルゴン)・・・とつづく。

 夜のネオンは、Neを閉じ込めた管内で放電して光を放つ。
毎夜・毎夜、そうしてもNeはビクともしない。
容易に化学反応しないから、別名「不活性ガス」というのだから。
車のヘッドライトのキセノンランプも、リビングのダウンライトのクリプトン球も、
長持ちするのは同様に、「不活性ガス」だからである。
それらを「希」ガス元素というのはどうして?という話である。

 希望の「希」ではあるが、実は「稀(まれ)」の略字である。
「希少」は正しくは「稀少」と書いた。しかし、教育漢字とやらに「稀」がないので、
右側だけでゴマかしているわけである。

とても安定な(不活性な)元素なのに、ごくわずか(稀少)しか存在しない、
という謎解きは化学畑でやることなのでここでは省くとして、実は、
「稀」を「希」と書くのはあながち間違いではない、というより「言い得て妙」である。
なぜなら、それ以外の不完全な元素達は、「希ガス元素」の電子配置に憧れて、
この電子配置を目標として1価の陽イオンとなるのだし
   ナトリウムイオン≒ネオン のコピー.jpg
   (例 NaイオンはNeと同じ電子配置)[http://www.hamajima.co.jp/bio/より]

また、水分子やメタン分子などは、電子数だけみれば分子全体としてNeを気取っている。
ただ、それが本物でないから、かつ、不完全なものだから、他のベターなパートナーを
求めて化学反応という離散集合を繰り返すのである。
 ということは、完全に満たされた電子配置をもつ希ガスとは、
他の不完全な原子達にとっては、まさに「希望の星」なのであり、
稀の代用の「希ガス」という命名は、奇しくも希ガスのステータスを表す命名と
いうことができるのだ!! ……言い得て妙なり。結果オーライ。
GHSの化学のイントロ授業の一コマである。 
posted by Kyuzen Ichikawa at 23:21| 漢字の由来と派生

2014年07月24日

〈10〉「約」の話

 センター試験1997出題文に、次のような一節がある。
父の赴任先から筆者が同行し帰る途中、湖で漁師から魚を買ったあと、漁師が急いで引き返してきて語る場面である。
    曰 始貨爾魚約三十銭也
 には「うる」(=sell)との読みがながついている。「貨幣と交換する」の意味に解せばよい。sellのつくる文型は、「人に〜を売る」という第4文型となる。直接話法なので、漁師自身の一人称は省略されている。
    (始  貨 爾 魚 約三十銭 也        A while ago I sold  you fish ・・・.
     (S)  時副 V4  O  O                    記

 そうすると、現和人には、約三十銭の箇所は、「およそ30銭で」という副詞に見えるものである。
しかし、この漁師は律儀にも、「先ほどいただいたお金は一銭多かった」といってわざわざ返しにくるのである。すると、「約三十銭で」という解釈では明らかに矛盾する。だいたいの金額でよいならば、キッチリ一銭を返却には来ないはずである。したがって、このは数量副詞をぼかす副詞=aboutではなく、「契約・約束」の意味の動詞でなければならない。これが読解と文法との恊働というものである。ただし、センター試験の設問は、選択肢がすべて「約す」となっているので、この点は考察する必要ないが、東大の二次試験に出したならば、誤読続出で差がつく良い設問になったかと思う。
 さて、この「約」の用例は、上の2つに加えて、要約、節約、倹約、誓約、簡約、約分などがある。それを由来から派生させて理解するというのは、テキストでもを例にしてやったことであるが、一つ一つ見慣れた漢字を捉え返していくのも、漢文の学びの必須要素である。
は、糸(いと)偏である。これは糸でくくり一つにまとめる、というのが原義である。(1)ここからスライドして、複数の人間の考えを一つにまとめると、契約、約束、誓約ということになる。また、(2)バラバラな枝をひとくくりにするとコンパクトにまとまる。つまり全体がスリムになる。そこで「要約・節約・倹約」という使い方となる。分数の分母・分子を共通因数で割れば、分数全体としてスリム・シンプルになるから「約分」ということになる。要点をまとめたものは、シンプルになるから「簡約」となるが、それは具体的な中身をカットしているから、だいたいの内容、あらすじとなる。(3)そこから品詞転用して、aboutの意味の「約〜」の用法が派生するのである。ただし、漢文では、(1),(2)の用法が主のようである。
posted by Kyuzen Ichikawa at 13:19| 漢字の由来と派生